【視察レポート】兵庫県三木市「公共交通の再編について」
- Yuya Koike
- 9 時間前
- 読了時間: 8分
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公共交通を「追加」から「再編」へ
三木市「デマンド型交通・ちょいそこ三木」の取組を視察
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兵庫県三木市を訪問し、「公共交通の維持・再編」をテーマに、デマンド型交通「ちょいそこ三木」の導入経緯や運行状況、路線バスとの役割分担について調査しました。
人口減少や高齢化、バス・タクシー運転手の不足が全国的な課題となる中、三木市では、既存の交通手段をそのまま残した上で新たなサービスを追加するのではなく、利用実態の少ない路線を見直し、その財源や運転手を新たな交通手段へ振り替える「公共交通の再編」を進めています。
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利用者の少ないコミュニティバスを見直し
三木市は人口約7万2,000人、市域面積約176平方キロメートルの自治体です。
市内には神戸電鉄粟生線や民間路線バス、コミュニティバスなどが運行していますが、人口減少に伴う利用者の減少や運転手不足により、公共交通を従来の形のまま維持することが難しくなっています。
一方で、鉄道や主要な路線バスは、通勤・通学や市外への移動を支える重要な交通手段です。三木市では、こうした幹線交通を守ることを基本に、利用の少ない地域内交通を見直しています。
最初にデマンド型交通が導入された吉川地域では、従来「よかたんバス」というコミュニティバスが4ルート運行されていました。
しかし、1便当たりの利用者数は最も少ないルートで約0.66人、多いルートでも約1.58人にとどまり、大型二種免許を持つ運転手が、利用者1人から2人程度の車両を運行する非効率な状態となっていました。
そこで、令和3年4月に「よかたんバス」を廃止し、その代替交通としてデマンド型交通「ちょいそこ三木」を導入しました。


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自宅付近から目的地まで移動できる仕組み
「チョイソコみき」は、事前予約に応じて複数の利用者を乗り合わせながら運行するデマンド型交通です。
主な運行内容は次のとおりです。
* 運賃は中学生以上300円、子ども・障害者等は150円
* 月曜日から金曜日まで運行
* 運行時間は午前8時台から午後5時まで
* 会員登録をすれば居住地を問わず利用可能
* 吉川町内に約115か所の乗降場所を設定
* 吉川町内の利用者は、自宅または自宅付近から乗車可能
* AIを活用して予約状況に応じた効率的な運行ルートを作成
* 運行や予約受付は、地域のタクシー事業者である吉川交通が担当
利用者は、買い物施設、病院、公共施設、金融機関、学校、バス停などへ移動することができます。
特に、自宅付近まで車両が迎えに来ることから、バス停まで歩くことが難しい高齢者にとって、利便性の高い交通手段となっています。

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路線バスやタクシーとの競合を防ぐ
デマンド型交通を単純に追加すると、既存の路線バスやタクシーの利用者を奪い、地域の公共交通全体を弱体化させる可能性があります。
そのため三木市では、各交通手段の役割を明確にしています。
鉄道や主要な路線バスは、市外への移動や通勤・通学を担う「幹線交通」として維持します。一方、「ちょいそこ三木」は、地域内の買い物や通院、公共施設への移動、鉄道・路線バスへの乗り継ぎを担う交通手段として位置付けています。
原則として、路線バスの停留所から半径300メートル以内の区域同士の移動には、路線バスを利用してもらうルールを設けています。
ただし、足が不自由な方など、バス停まで移動することが難しい場合には、柔軟に利用を認めています。
また、個人宅から個人宅への移動などは対象外とすることで、一般のタクシー事業とのすみ分けも図っています。
公共交通を守るためには、新しい交通手段を便利にし過ぎないことも必要であるという考え方が印象的でした。
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公共交通の人口カバー率は100%へ
吉川地域では、デマンド型交通導入前の公共交通人口カバー率は約73.6%でした。
「よかたんバス」の廃止により、鉄道駅や路線バスだけで見たカバー率は約63.6%に低下しましたが、「ちょいそこ三木」が地域内全域をカバーすることにより、公共交通人口カバー率は100%となりました。
路線を固定して車両を走らせるのではなく、予約に応じて必要な場所へ車両を配車することで、人口が分散する農村地域においても、移動手段を確保しています。

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市の財政負担を約35%削減
「よかたんバス」の運行に対する市の補助額は、令和元年度に約2,580万円でした。
これに対し、「ちょいそこ三木」に対する令和6年度の補助額は約1,680万円となり、市の財政負担は約35%削減されました。
一方、利用者1人当たりの補助額は、いずれも約3,580円で、ほぼ同水準となっています。
利用者数は、コロナ禍前の「よかたんバス」が年間約6,100人であったのに対し、「ちょいそこ三木」は令和7年度で約5,100人と、まだ以前の水準には達していません。
しかし、市全体の負担を減らしながら、自宅付近から利用できる利便性の高いサービスへ転換できたことは、大きな成果といえます。

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高齢者の買い物・通院を中心に利用
令和6年度末の吉川地域における会員登録者数は527人で、実際に利用した人は141人、年間利用件数は約4,500件でした。
利用者の中心は70歳代から90歳代で、女性の利用割合が特に高くなっています。
主な目的地は、買い物施設が約36%を占め、そのほか公共施設、病院などへの利用が多く、当初想定していた高齢者の日常生活を支える交通手段として利用されています。
実利用者141人のうち110人が複数回利用しており、一度利用した人の多くが継続して利用する傾向も確認されています。
一方で、会員登録をしても実際には利用していない人が多いことから、三木市では「まず一度使ってもらうこと」を今後の課題としています。
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路線廃止には丁寧な住民説明が不可欠
既存のバス路線を廃止・休止する際には、住民から強い反発もあったとのことです。
三木市が特に力を入れたのが、少人数を対象とした出前講座です。
大規模な説明会だけでなく、地域住民が5人程度集まれば職員が地域へ出向き、路線を見直す理由や、デマンド型交通の予約方法、具体的な利用場面などを対面で説明しました。
令和7年10月に新たな3地区へデマンド型交通を拡大した際には、38回の出前講座を開催し、約750人の市民が参加したとのことです。
「路線を廃止します」と一方的に伝えるのではなく、現在の路線を維持するためにどれだけ税金が投入されているのか、新しい交通手段によって何が便利になるのかを丁寧に説明することが、合意形成の重要なポイントとなっています。
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地域ボランティアによる移動支援も実施
三木市では、デマンド型交通以外にも、地域住民が運転を担う「地域ふれあいバス」を3地区で運行しています。
車両の購入・管理、保険、修繕、車検、燃料費、運転者への謝礼などは市が負担し、利用者は無料です。
一方で、ボランティア運転手の高齢化が進み、担い手の確保が課題となっています。
実際に、地域ふれあいバスから、プロの運転手が自宅付近まで迎えに来る有料のデマンド型交通へ移行した地域もあります。
地域住民の善意だけに依存するのではなく、安全性や持続可能性を踏まえ、地域の実情に応じて交通手段を選択する必要があります。
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小池ゆうやの視点
新しい施策を「足す」のではなく、交通体系全体を組み替える
今回の視察で最も重要だと感じたのは、三木市がデマンド型交通を既存の交通施策に単純に上乗せしていない点です。
利用者の少ないコミュニティバスを見直し、そこで生まれた財源や運転手を、新しい交通手段や利用の多い路線へ振り替えています。
上尾市では、民間路線バスに加え、市内循環バス「ぐるっとくん」が市内各地域を運行しています。また、企業の送迎バスなど、地域に存在する輸送資源の活用に向けた取組も進められています。
一方で、新たな交通サービスを既存の路線に追加するだけでは、市の財政負担が増えるだけでなく、路線バスやタクシーの利用者を奪い、結果として公共交通全体が維持できなくなる可能性があります。
上尾市は三木市より市域が狭く、比較的平坦で、鉄道駅やバス路線も多いことから、三木市と同じ仕組みをそのまま導入することが最適とは限りません。
まずは、
● 路線ごとの利用者数
● 運行経費と市の負担額
● 利用者1人当たりの行政負担
● 交通空白・不便地域の分布
● 通勤・通学、通院、買い物など利用目的
● 民間バス、タクシー、企業送迎バスなど既存資源の状況
を客観的に整理する必要があります。
その上で、利用の多い幹線路線は充実させ、利用の少ない地域では、デマンド型交通や企業送迎バス、地域主体の移動支援などへの転換を検討することが重要です。
公共交通政策では、全ての地域に同じ交通手段を走らせるのではなく、地域の特性に応じて交通手段を組み合わせる視点が求められます。
新たなサービスを増やすこと自体を目的とするのではなく、限られた財源と運転手を有効に活用しながら、将来にわたって移動手段を維持できる仕組みをつくることが必要です。
今回の三木市の取組を参考に、上尾市においても「施策の追加」から「公共交通体系全体の再編」へと議論を進めてまいります。
