【市財政】「黒字だから安心」ではない。令和7年度決算で注視した「実質単年度収支」の急減~上尾市の財政~

令和8年度9月議会では、令和7年度の上尾市決算を審査しました。
今後少しずつ決算審査で小池が注視したポイントについて、複数回に分けて解説していこうと思います。
今回は、以下小池が決算審査で質疑した主な内容の内、#1と#2に関連する「上尾市の財政収支から分かること」を解説します。

上尾市の一般会計を見ると、歳入は約903.0億円、歳出は約866.1億円。そして翌年度へ繰り越す財源を除いた実質収支は約32.5億円の黒字となっています。
また、実質公債費比率は5.0%で、国が定める早期健全化基準を大きく下回っており、現在の財政が直ちに危機的な状態にあるということではありません。
しかし、今回の決算審査で私が特に注視した数字があります。
それが、
「実質単年度収支」
です。
「32.5億円の黒字」だけでは分からないこと
まず、財政の数字にはいくつかの「収支」があります。
上尾市が決算概要で示している実質収支は、歳入から歳出と翌年度へ繰り越す財源を差し引いたものです。
令和7年度は、
実質収支 32億5,282万円
となっています。
この数字だけを見ると、「上尾市には30億円以上の黒字があるのだから、財政にはかなり余裕があるのでは?」と感じる方もいると思います。
しかし、実質収支には、過去から積み上がってきた収支の影響も含まれています。
そこで、「今年度だけで財政状況はどう動いたのか」を見るのが「単年度収支」です。
単年度収支は、
今年度の実質収支-前年度の実質収支
で計算します。
令和7年度の場合、
32億5,282万円-34億5,672万円
ですから、単年度収支は約▲2.04億円となります。
つまり、「実質収支は32.5億円の黒字」である一方、その残高自体は前年度より減少しています。
さらに一歩踏み込んで見る「実質単年度収支」
ここからさらに、財政調整基金への積立てや取崩し、地方債の繰上償還といった要素を調整したものが、
実質単年度収支
です。
一般的には、
単年度収支+財政調整基金積立額+地方債繰上償還額-財政調整基金取崩額
で算出されます。
いわば、基金の出し入れなどを調整した上で、「その年度の財政運営で、実質的にどれだけ余力を生み出せたのか」を見るための指標です。
令和7年度の上尾市では、この実質単年度収支が、
1億5,994万円
となりました。
直近5年間の推移を見ると、
令和3年度 約14.10億円
令和4年度 約7.71億円
令和5年度 約10.56億円
令和6年度 約4.47億円
令和7年度 約1.60億円
です。
年度による増減はありますが、大きな流れとしては縮小しており、特に令和7年度は前年度の約4.47億円から約1.60億円へ、約64%減少しています。
令和3年度と比較すると、約14.10億円から約1.60億円へ、およそ9割縮小しています。
ここを私は重く見ています。


なぜ今、この数字を見る必要があるのか
理由は、これから上尾市には非常に大きな財政需要が控えているからです。
上尾市の学校施設更新計画では、現在の学校数・面積をそのまま維持して更新した場合、35年間の更新費用が概算約899億円と試算されています。
さらに、上尾市と伊奈町が共同で整備する新しいごみ広域処理施設については、現在の基本計画で概算建設費598億円とされています。
しかも、この598億円には用地取得費や一部の委託費などが含まれていません。組合全体の財源計画では、交付金165億円、市債365億円、一般財源68億円が想定されています。なお、598億円全額を上尾市が負担するわけではなく、上尾市と伊奈町で負担する共同事業です。
このほかにも、学校給食施設をはじめ、老朽化する公共施設の更新が今後続いていきます。
だからこそ、今後の上尾市財政では、
「今年は黒字だったか」
だけではなく、
「将来に備える財政的な余力を毎年度どれだけ確保できているのか」という中長期的な視点が非常に重要になります。
「実質単年度収支が赤字=すぐ財政危機」ではない
ここは誤解のないようにしておかなければなりません。
実質単年度収支が減ったり赤字になったからといって、直ちに自治体が資金調達できなくなるわけでも、市債、つまり市の借金が自動的に増えるわけでもありません。
実際、令和7年度の上尾市は、法律上の健全化判断比率では早期健全化基準を大きく下回っています。
問題は、「この状態が何年も続いた場合」です。
実質単年度収支の赤字が継続し、財政調整基金の取崩しで補う状況が続けば、将来の景気悪化や災害、物価高、大規模施設更新などに対応する財政上の余力は小さくなります。
そうなれば将来的には、事業の見直しや実施時期の調整、新たな歳入の確保、そして市債を活用できる事業では借入れをどこまで行うのか、といった判断がより厳しくなります。
だからこそ、赤字になってから対応するのではなく、黒字である今の段階から推移を確認することが重要だと考えています。
この数字は、決算書を眺めるだけでは見えにくい
今回、もう一つお伝えしたいのは、実質単年度収支は、市民の皆さんが通常目にする決算概要の最初のページを見ただけでは、すぐには分からない数字だということです。
上尾市の令和7年度決算概要には、実質収支32億5,282万円は掲載されています。
一方、実質単年度収支を確認するためには、前年度の実質収支との比較に加え、財政調整基金の積立額・取崩額など、複数の数字を確認する必要があります。令和7年度の基金運用状況では、財政調整基金への積立ても別途示されています。
議会の決算審査でも、決算額そのものを見るだけではなく、
「その数字がどのように構成され、将来の財政運営に何を意味するのか」
まで読み解く必要があります。
私は、これこそが決算審査における議会の重要な役割の一つだと考えています。
提言してきた「中期財政計画」が策定!
私はこれまでも、大型事業が本格化する上尾市において、単年度の予算・決算だけではなく、複数年度にわたって歳入・歳出、基金、市債を見通す中期財政計画が必要だと提言してきました。
そして上尾市は、令和8年9月29日、「上尾市中期財政計画」を公表しました。
計画を策定すること自体がゴールではありません。
今後重要なのは、実際の決算との差を毎年度検証し、
財政調整基金をどの程度確保するのか。
大型事業をいつ実施するのか。
市債をどの程度活用するのか。
将来世代への負担をどう平準化するのか。
といった判断に、中期財政計画を実際に活用していくことです。
上尾市の「今」だけでなく「10年後」を見る
令和7年度決算だけを見れば、上尾市の実質収支は黒字であり、健全化判断比率も国の基準を大きく下回っています。
一方で、実質単年度収支は直近で大きく縮小しています。
この二つは矛盾する話ではありません。
「現在の財政指標は健全な範囲にある」ことと、「将来に向けた財政余力の変化を早い段階から確認する必要がある」ことは、両立します。
これから学校、広域ごみ処理施設、給食施設、その他の公共施設更新が本格化していくからこそ、表面的な「黒字・赤字」だけでなく、中長期的な財政の動きを見ていかなければなりません。
実質単年度収支は、そのために私が今後も継続して確認していく指標の一つです。
令和8年度以降、この数字がどう推移するのか。
市民サービスを維持しながら、次の世代に過度な負担を残さない財政運営となっているのか。
引き続き、決算・予算の両面から検証してまいります。




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